FIを搭載したスーパーカブの歴史

排ガス規制

自動車・二輪車の進化の歴史は、排ガス規制に始まる法規制の歴史である。
1975年、石油危機を発端にマスキー法が施行された。HondaはこれにCVCCと呼ばれる希薄燃料の主燃焼室に、副燃焼室からのトーチ炎で着火するという技術で乗り越えた。
その後キャタライザ・三元触媒による排ガス浄化が主流となり、ほどなくしてキャブレターから燃料噴射装置へ移行した。
キャブレターのアバウトな燃料制御では、狙ったエミッション性能を実現する = 三元触媒の還元作用範囲に空燃比を制御することに限界があったのだ。

TIPS: PGM-CARB
Hondaは、PGM-CARBと呼ばれる電子制御キャブレター制御システムを開発し、1986年のGA1 CITYから市販車に搭載した。 キャブレターを電子制御でフィードバック・補正制御する機構だったが、数年で姿を消している。 故障も多かったと聞く...。

二輪車の排ガス規制

二輪車における排ガス規制の初施行は、四輪車よりも遅い1998年(250cc以上は1999年から)。
当時は2ストロークの全盛期で、空気、燃料の他にオイルを燃やして走るバイクがほとんどだった。
この規制により、ほとんどの2ストロークが世を去り、次第にインジェクションのバイクが台頭する。

2006年: 測定モードが冷気モードへ(250cc以上は2007年から)。多くの原付/軽二輪がインジェクションになった。
2012年: 全てのオートバイの試験モードが世界統一二輪車排出ガス試験手順(WMTC)へ。
2016年: WMTC規制値強化(EURO4)。OBD法規施行。
2020年: 規制強化(EURO5)。OBD2法規施行。

次期の排ガス規制については、Euro6により規定されると考えられる。
なお、既に型式認定を得ているものは、施行日を起点に1年間継続して生産することを認められる。

TIPS: なぜヨーロッパの規制なのに日本に関係あるの?
多くの完成車メーカーは、世界各国に市場を展開している。 多くの国で多かれ少なかれ似たような法律が施行されており、完成車メーカーは複数の国で売れる同じ仕様の車両を作ることでコスト削減を実現しているのだ。 メーカーとしては世界基調の車を作ってコストを下げることが経営上の要求となり、国はそうした意向を取り入れながら法律を導入する。

スーパーカブ FIシステムの歴史

カブシリーズで初めてFIが搭載されたのは2003年7月発売のWave125iだった。
ここから、カブシリーズ特有のインジェクションシステムの変化を解説する。

第1世代: 歴史の転換点 Thai Honda Wave125i(2003)

日本モデル: 該当なし

Alt text ▲ 2004年発売マイナーモデルチェンジ後のWave125i
(出典: Thai Honda Waveの20年)

スーパーカブにおける世界の台所はアジア大洋州、とりわけタイ王国である。
タイ王国における最初のインジェクションバイクは2003年に発売されたWave125i。
タイ初の量産インジェクションバイクと共に、スーパーカブとしても世界初のインジェクションとなった。

スーパーカブ スロットルボディ周り図解
▲ 参考文献: 63KPHLTIAP 2003 Wave125i サービスマニュアル

上に示したものは2003年モデルのWave125iのサービスマニュアルから抜粋したWave125iのスロットルボディ周りの解説図である。形状は現在のスーパーカブのものと異なることがわかる。
センサーユニットとECM(ECU)が統合された形状で、スロットルボディに丸ごと取り付けられている。
また、ECUのコネクタは2列32ピンで、日本における初期のカブに採用された3列33ピンと互換性はない。
謂わば初期型のFIシステムというべきものであるが、今日のスーパーカブと比べても制御面の基本理論は一貫しており、早くから四輪でPGM-FIを世に送り出し、実証を重ねてきたHondaらしい。

参考: 小型二輪車電子制御燃料噴射システム用ECU統合型スロットルボデーシステムモジュールの開発
※Honda 小型二輪用PGM-FIのシステム概要がわかる貴重な論文

なお、この時代のECUはプロセッサが32bitだった


第2世代: 2005年〜

日本モデル: JBH-AA01(50)、EBJ-JA07(110)、EBJ-JA10(110)

Alt text
▲ 参考文献: 63KYZJT1AP 2005 Wave125i サービスマニュアル
シート下にECM(ECU)があり、第一世代の一体型とは異なる。

Wave110i (2009-2010)およびWave125i (2005-2011)のモデルに適用。
PGIM-FI(スロットルボディ/センサユニット/ECUの筐体)が多くの小型モデルと共通化され、日本のリトルカブやプレスカブ、JA07、JA10といったモデルともハード的な互換性がある。
注意をしたいのは、モデルによってECUのピン配置やフライホイールなどのタイミング関係が異なっていることで、単純に取り付けても動かないものがほとんど。これに関しては別の記事で互換性を調査している(リンクは別途貼る)。

スーパーカブ スロットルボディ周り図解
▲ 日本でもおなじみのスロットルボディ・センサユニット

第一世代のECUでは、従来の大型車種用のセパレートタイプに対して省スペース化などの利点が論文にて触れられているが、第2世代にセパレートタイプに戻っている。
これについては、後述する第3世代で防水性・防塵性に触れられていることからも、車両前方で雨滴や跳ね上げた粉塵をモロに受ける場所にあえて設置するよりも、シート下の遮蔽された箇所に設置するほうが良いとの判断であると考察する。

スーパーカブ スロットルボディ周り図解
▲ ECU筐体はこの形

なお、タイ国内のコンシューマ間では2005年~2012年頃のWave125iを”STEP3”と呼び、2013年以降のモデルを”STEP4”と呼んでいる。
STEP4と呼ばれるモデルは「New Honda Wave125i」と銘打って発売されたWaveで、PGM-FIの進化などを含めたFMCにあたる。
STEP3のSTEP4コンバートなどが過去タイで流行した闇チューニングで、STEP4のフライホイールと、闇ECUを取り付けることで性能向上する、というものだったらしい。
(調査の末、仮に2003の初期モデルをSTEP1と呼ぶと、STEP2がどの年式に当たるかは不明だった)

TIPS: API TECHのフルコン
API TECHはレースもやっているまともなチューニングメーカー。 API TECHから出されているカブ向けフルコンがあるが、商品名に"S3"とか、"S4"と書かれているものは、STEP3、STEP4のことを意味する。

第3世代: All New Honda Wave125i

日本モデル: 2BJ-JA55(CT125)

Alt text
▲ 2019年発売”All New Honda Wave125i”
(出典: Thai Honda Waveの20年)

36P防水ECM

満を持してリリースされた第三世代のECU。
パッケージは防水カードエッジ・コネクタを採用し、IPX7相当の防水性や振動耐性を高めた上、コネクタを含めた製品コストは従来品(第2世代)対-20%を達成した。

ハード的な性能向上がメインで、頭脳的な部分はこれまで通りの16bit ECUであると考えられる。
カプラーは2列36Pとなり、モデルによっては排ガス規制の憂き目にあい、キャニスターのパージソレノイドなどが追加されている。
(汎用入出力を利用していると考えられるため、前世代ECUでも対応できた可能性は高い)

(参考: 小型二輪車用廉価カードエッジECUの開発)


第4世代: CANライン

日本モデル: 8BJ-JA58(C125)、8BJ-JA59(110)

UN-ECE/WP29により決定されたEURO5とともにOBD2の導入が決定された。
世界初のOBD2法規導入国は日本で、2021年1月以降の新型式取得車を対象にするもの。
(タイモデルの調査は未完了だが、CT125の発売地域であるため共通と考えられる)

車両電装城の特徴としては、これまでのK-LINE式からCANラインを搭載した診断機通信のラインとなる。当然診断カプラーはSCSから国際標準のDLCに。
ECU(ECM)のカプラーは再び3列に戻り、そのピン数はモデル最大の48ピン。
なぜか防水・防振型のカプラーではない第2世代と似たような素材、形態のカプラとなっている。

日本のスーパーカブ FIの歴代モデル

日本において、スーパーカブ/リトルカブが初めてFI化されたのは2007年のマイナーモデルチェンジ(MMC)。
Hondaのプレスリリースによると”マイナーモデルチェンジ”と記載れているが、これが初めてPGM-FIを搭載したスーパーカブだった(JBH-AA01)。シャシ系はキャブ車のBA-AA01と共用であるが、電装やエンジンは専用設計である。

ロングセラーのビジネスバイク「スーパーカブ50」「プレスカブ50」シリーズの環境性能を高めマイナーモデルチェンジし発売

このスーパーカブ、ならびに同日にリリースされたリトルカブが2006年排ガス規制をパスしたカブシリーズであり、この法規制を通過できなかったカブ90は2008年に製造終了する。
一方で、小型二輪級のスーパーカブは、カブ90が発売終了した翌年の2009年にカブ110(EBJ-JA07)へと移行した。

ビジネスモデル「スーパーカブ110」を新発売

こうした、2007年を皮切りにFI化の波に乗ったスーパーカブに関する年表を以下の表にまとめた。
この表は、主に新発売、型式変更のみをまとめたもので、型式が変わらないMMCは掲載していない。 なお、MD・Pro系については追って調査したい。

yeardescription
2007年カブ50をMMC(JBH-AA01)。
2009年カブ110発売(EBJ-JA07)。
2012年カブ50をFMC(JBH-AA04)、カブ110FMC(EBJ-JA10)。
この時、リトルカブはモデルチェンジを行わず、2017年8月31日まで製造される。
2013年クロスカブ発売。型式はEBJ-JA10から変更されず。
2015年リトルカブSP発売(JBH-AA01)。
2017年50/110でFMC(2BH-AA09、2BJ-JA44)。中国生産から熊本生産に変更。
2018年クロスカブFMC(2BJ-JA45)、クロスカブ50発売(2BH-AA06)、C125発売(2BJ-JA48)。
2019年ストリート発売(2BH-AA09, 2BJ-JA44)
2020年CT125発売(2BJ-JA55)
2021年C125MMC(8BJ-JA58)
2022年110MMC(8BJ-JA59), クロスMMC(8BJ-JA60)、CT125MMC(8BJ-JA65)

スーパーカブ FI ECUの部品番号

カブ系のECUの部品番号について、2007年以降のパーツリストを掻っ攫ってみた。

Standard/Little/Press/MD

(調査中)

カブ110

型式年式部品番号
JA07200938770-KWV-043
JA072011同上
JA10201238770-KZV-J03
JA102016同上
JA44201838770-K88-J02
JA442020同上
JA59202238770-K88-J43

カブ110は認定型式毎にECUが異なり、各型式内で変更はない。

クロス系統

型式年式部品番号
JA10201338770-KZV-B01
JA45201838770-K88-B02
2020同上
2021同上
JA602022同上

カブ110とクロスカブはECUが異なるようだ。
2020年、2021年にモデルチェンジが行われているが、部品番号は共通。


クロス50

型式年式部品番号
AA06201838770-GGN-B02
2020同上
2022同上

CT125

型式年式部品番号
JA55202038770-K2E-J02
JA65202238770-K2E-J12

C125

型式年式部品番号
JA48201938770-K0G-942
JA58202238770-K0G-J22

(工事中)

参考文献

  • 各引用箇所に記載
  • ECU部品番号は各車種パーツマニュアルを参照